水星磁気圏探査機みお

太陽系イチ過酷な熱環境へ
探査機を送り込む
BepiColomboプロジェクトエンジニア小川博之

設計は熱との戦い

私はBepiColomboプロジェクトの立ち上げからかかわっており、もう20年くらいになります。「みお」の分離運用が7年後ですから、そこまで含めると30年近く携わることになります。水星探査ミッションは熱的に厳しいことはわかっており、計画当初から熱対策を考えて探査機を設計しました。
たとえば水星表面からの赤外線加熱の影響を極力小さくするため、水星周回軌道を工夫しており、太陽光強度が高い季節には水星表面の昼側には近づかないような軌道になっています。また探査機の姿勢も熱対策のために工夫しています。「みお」は観測装置からの要求で探査機の軸周りにくるくる回るスピン衛星ですが、熱対策として探査機の軸を太陽光にほぼ直角で南北方向にしました。こうすることで側面パネルに照射された太陽熱が全周にいきわたり、側面パネルの温度を下げることができます。

「みお」熱試験モデルのESA/ESTECにおける試験時の集合写真(2010年9月)。

熱に耐える材料開発

「みお」は基本的に太陽光を吸収せず反射するように表面を鏡や白色にしてなるべく高温にならないようにしていますが、それでも地球近傍では経験しない高温になります。「みお」は水星周辺のプラズマを観測するために探査機表面に導電性でなくてはならず、宇宙環境(真空・紫外線・放射線)に対する適合性に加えて、高温に対する耐性と導電性が材料に求められるため、材料の選択と評価に苦労しました。我々の要求にこたえられる材料は非常に少なく、特に白色塗料はBepiColomboのために特別に開発したものを使っています。例えば高利得アンテナはこの導電性白色塗料で塗装されていますが、水星軌道上では400℃にも達します。アンテナの裏面に取り付けられた多層断熱材(MLI)も400℃以上の高温に耐えられるよう、チタン箔やセラミック糸などを用いて特別につくられたものです。

「みお」搭載のハイゲインアンテナ。新規に開発した導電性の白色塗装が使われている。

軽量化 vs 熱設計

水星環境は全く未経験ですので探査機や観測機器の試作品を水星環境を模擬した環境で試験して設計にフィードバックすることが必要でした。そのために地上で水星環境を模擬できる内惑星熱真空環境シミュレーターをプロジェクト開始前に宇宙科学研究所に整備し、上記太陽電池や白色塗料、MLIや観測機器の試験に使用しました。未経験の環境では想定外の事象が生じるもので、何回も再設計・再試作したものも少なくありません。
探査機には極限までの軽量化がもとめられましたが、これは熱設計には厳しく非常に難しい設計が要求されました。例えば、軽量化のために板厚を小さくすると、熱伝導が悪くなってしまいますし熱容量も小さくなります。熱容量が小さくなると、例えば水星表面からの赤外線加熱により急激な温度上昇が生じます。軽量化のため極限まで絞り込んだ熱設計になっています。

ESA/ESTECの大型宇宙環境シミュレータにおける熱真空試験の様子。地球上の日光の約10倍強い光を照射した(2010年10月)。写真:ESA/JAXA

「みお」は打ち上げ後分離まで7年ほどほぼ電源OFFの睡眠状態で過ごしますが、分離後の運用の詳細はこれから検討して決めることも多く、準備作業で忙しい7年になります。水星までの道中の温度データをどきどきしながらチェックしつつ、7年後の本格運用を楽しみにその準備を着実に進めたいと思います。

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