水星磁気圏探査機みお

[ISAS news] 「みお」搭載磁場観測装置 MGF (松岡)

2019年10月29日

水星到着後の「みお」を描いた画像では、探査機から突き出ている一対の伸展物(伸展マスト)が目を引く。伸展マストには水星周辺の磁場を観測するためのセンサが載っている。約5メートルもの長さを持つ伸展マストをわざわざ伸ばす目的は、探査機本体からセンサを離して探査機が出す磁場の影響を受けにくくし、高い精度の磁場観測を可能にすることにある。

一対の伸展物のうち一方には、直流から数十ヘルツまでのゆっくり変動する磁場を測るフラックスゲート方式磁力計(MGF)のセンサが二つ載っている。センサはそれぞれ、探査機本体内部の二枚の回路部基板と電気ケーブルで繋がっている。これら二式の磁力計の一つはオーストリアとドイツを中心としたヨーロッパのグループ、もう一つは日本のグループにより開発、製造されたものである。二式載せている理由は二つある。一つは、磁場計測は「みお」の科学ミッションの達成に不可欠なので、仮に一つが故障しても、もう一つで磁場計測を可能にすること。もう一つの理由は、探査機からの距離が異なる二か所の磁場を同時に測り、探査機が出す磁場の影響を正確に評価することである。伸展マストの先端(探査機との距離4.6メートル)にヨーロッパグループのセンサ、途中(探査機との距離2.9メートル)に日本グループのセンサを載せ、磁場の同時測定を行う。

フラックスゲート磁力計は、「みお」だけでなく、BepiColomboプロジェクトの相棒である水星表面探査機(MPO、ISASニュース2019年7月号参照)にも二式搭載されている。二つの探査機によって得られた磁場データを、日本とヨーロッパの合同チームで協力して解析し、水星の磁場環境を総合的に解明する計画である。

水星の磁場に関する観測の歴史は、1974年から1975年にかけてのマリナー10探査機によるフライバイ観測にさかのぼる。この観測によって、水星が地球と同じく双極子型の惑星磁場を持ち(ただし磁気モーメントは地球の約2000分の1)水星の周りに磁気圏を形成していることが発見された。この発見は、当時の惑星の磁場発生に関する理解に大転換を起こした。しかしフライバイ観測ではデータが十分でなく、磁気モーメントの正確な決定や双極子以外の磁場成分の分離が出来なかった。その後メッセンジャー探査機による2011年から2015年にかけての水星周回観測により、水星の正確な磁気モーメントや、双極子モーメントが水星の中心より北に寄っていることが明らかになった。メッセンジャー探査機の近水点は北半球に固定されていたのに対し、「みお」とMPOは南北対称の軌道で磁場観測を行う。この利点を生かし、水星の磁気モーメントをより精度高く求めれば、惑星に磁場が発生する機構の研究が進むと期待されている。

地球と比べ、水星は惑星固有の磁気モーメントが小さく、太陽風の動圧が強い。このため、水星周辺や水星表層の電磁場が、太陽風の磁場や速度の変化の影響を強く受けることが知られている。また、水星の磁気圏は、太陽風の変動にきわめて俊敏に反応すると考えられている。メッセンジャー探査機では一点であった磁場の観測点を、「みお」とMPOの二点に拡大することは、その二点間で起きている物理過程に切り込むことを可能にする。それはデータが二倍になることよりはるかに重要な意味を持つ。

BepiColomboは昨年10月20日に無事打ち上げられた。11月9日の初期運用で、「みお」の二式のMGFが正常に機能することが確認された。更に、今年8月6日には前述の伸展マストを固定していたラッチを無事に解除した(ISASニュース2019年9月号を参照)。ただ、マストの伸展は2025年の水星周回軌道投入まで待たなければならない。それまでは「みお」の磁力計のデータはBepiColombo本体が出す磁場ノイズの影響を受けるため、本来の力を発揮することが困難である。メッセンジャー探査機の成果を更に吟味しデータ解析ツールを万全に整えることにより、水星周回後の科学観測に備えていきたい。

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「みお」は水星周回軌道投入後、5メートルの長さの伸展マストを展開し、先端に搭載したMGF-OSセンサと中間に搭載したMGF-ISセンサの2つのフラックスゲート方式センサにより水星の周囲の磁場を観測する。

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探査機が出す磁場を測定するため、相模原キャンパス磁気シールドルームの中で試験中の「みお」(2013年7月3日)

この記事は、ISASニュース 2019年10月号 (No. 463)に掲載されています。

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