水星磁気圏探査機みお

MISSION

©ESA/ATG medialab

水星磁気圏探査機「みお」、
ベピコロンボとは?

初の大規模国際協力ミッション

BepiColombo(ベピコロンボ)は宇宙航空研究開発機構(JAXA)とヨーロッパ宇宙機関(ESA)が協力して進める国際水星探査計画です。JAXAが担当する水星磁気圏探査機「みお」とESAが担当する水星表面探査機MPOの2機の探査機を同時に水星周回へ送り込み、総合的な観測を行う大規模な国際協力ミッションです。 2018年10月にフランス領ギアナからアリアン5ロケットにより打ち上げられ、合計9回もの惑星スイングバイを経て2025年12月に水星周回軌道へ投入される予定となっています。

©ESA

構想から21年!
JAXAプロジェクト最長

日本で水星探査の検討が始められたのが1997年なので、実に21年もの期間を経て水星へ向けて打ち上げられます。これはJAXAの探査機プロジェクトとしても開発期間10年以上と最長であり、それだけ開発に携わった関係者の想いが注がれています。また開発を担当する宇宙科学研究所としても初の大規模な国際協力ミッションであり、地球の磁気圏探査で培われた日本の得意とする観測技術がふんだんに盛り込まれています。世界の中でも日本のもつ技術の高さを証明すべく、関係者の熱い意気込みがこの探査機には込められています。

名前の由来

「みお」

「みお」は河川や海で船が航行する水路や航跡の意味をもちます。これまでの探査機の研究開発の道のりを示すとともに、これからの航海安全への祈りが込められています。また、古くより船が航行するときの目印にする標識を澪標(みおつくし)と云い、和歌では「身を尽くし」の掛詞になることから、努力と挑戦を続けるプロジェクトメンバーの思いを表しています。この愛称は公募で選ばれました。

「BepiColombo」

BepiColomboという名前はイタリアの天体力学者であるGiuseppe Colombo氏に由来しています。
水星の自転周期と公転周期が2:3の共鳴関係にあることを提唱したり、スイングバイを惑星探査機の航行に利用した先駆者でもあります。その功績をたたえ、彼のニックネームであるBepiをつけて我々の水星探査計画をBepiColomboと名付けたのです。

Giuseppe Colombo氏の写真

探査機を知る

MPO
みお

Mercury Magnetospheric Orbiter

「みお」はJAXAが開発したスピン衛星です。磁場やプラズマ、希薄大気、ダストなど水星周辺の環境を詳細に観測することを目的としています。水星周回では地球の約10倍強い太陽光を受ける上に、昼には約430℃にも達する水星表面からの熱放射にも耐えなければなりません。MMOでは、常に太陽光にさらされる側面には鏡を多用し、反射によって少しでも熱の吸収を減らすとともに宇宙空間への放熱効率を上げています。そのため過酷な熱環境である水星で観測を行うための様々な工夫が凝らされています。また太陽電池の裏側には機器を配置していません。太陽電池は黒色のためどうしても温度が高くなるからです。

「みお」の熱対策

Mercury Planetary Orbiter

水星表面探査機(MPO)はESAが開発した3軸制御衛星です。水星の表面(地形、鉱物・化学組成)や内部(重力場、磁場)を詳細に観測することを目的としています。強力な太陽光に対しては、常に耐熱シールドの面が向くように姿勢を制御し、冷却を必要とする機器などを含めて探査機本体の温度を低く保つ設計をとっています。

©ESA/ATG medialab
「みお」の熱対策

困難の多い旅

スイングバイでたどり着く

水星は実は探査が困難な惑星です。たどりつくために最も多くのエネルギーが必要な惑星だからです。そのため、これまで水星へ行ったことがある探査機はマリナー10号とメッセンジャーの2機のみで、水星周回軌道に投入されたのはメッセンジャーだけとなります。BepiColomboの水星への道のりも険しく、水星へたどり着くのに必要な膨大なエネルギーを賄うために合計9回もの惑星スイングバイを行います。これは惑星探査機としては史上最多です。
惑星スイングバイとは、惑星の重力によって探査機の進む方向を変えたり加速・減速したりする航法です。スイングバイを利用すると、燃料を使わずに探査機を運航できるので、今では多くの惑星探査機がスイングバイを利用して目的の惑星へ向かいます。

201820192020202120222023202420252026
打ち上げ
2018年10月20日
地球スイングバイ
2020年4月6日
金星スイングバイ
2020年10月12日
金星スイングバイ
2021年8月11日
水星スイングバイ
2021年10月2日
水星スイングバイ
2022年6月23日
水星スイングバイ
2023年6月20日
水星スイングバイ
2024年9月5日
水星スイングバイ
2024年12月2日
水星スイングバイ
2025年1月9日
水星周回軌道投入
2025年12月5日
©ESA
NASA
©ESA/ATG medialab

なぜ到着まで約7年もかかるのか?

地球と水星の距離は最も近いときで約0.5天文単位、最も遠いときでも約1.5天文単位であり、木星までの距離が最短で約4天文単位であることと比べてもそれほど遠い距離ではありません。
それではなぜ到着まで7年もかかるのでしょうか? その要因はスイングバイ回数の多さにあります。探査機をスイングバイさせるためには惑星に近づくタイミングを待たなければならず、そのために太陽の周りを何周もすることもあります。決して地球からの距離が遠いために7年もかかるわけではなく、スイングバイのための待ち時間が長いためにこれだけの期間を要してしまうのです。

水星での観測

2機の探査機を異なる軌道へ投入

BepiColomboは水星へ到着すると、いよいよ世界初となる2機の探査機の周回軌道への投入を行います。役目を終えた電気推進モジュールを分離した状態で水星周回軌道投入を行い、まず「みお」を遠水点高度の高い長楕円軌道へ投入します。
その後サンシールドも分離したMPOは徐々に高度を下げ、高度の低い軌道へと投入されます。以降、「みお」とMPOは同じ軌道面上を異なる高度で周回しながら、それぞれ科学観測を行います。

電気推進モジュールを分離電気推進
モジュール
「みお」を軌道へ投入「みお」
サンシールド分離後、MPOの軌道へ降下MPOサンシールド

「みお」の観測

「みお」に搭載されたプラズマ・粒子観測装置、磁力計、およびプラズマ波動・電場観測装置は連動して観測を行い、水星周辺の宇宙環境、特に磁気圏で起こる様々な物理現象を捉えます。
またナトリウム大気カメラは水星がもつ希薄なナトリウムの大気の発光を捉え、その分布と時間変化から大気生成メカニズムの謎を明らかにします。さらに水星ダスト計測器はほとんど未知である太陽系最内縁でのダスト分布を観測します。

「みお」の観測装置
©ESA/ATG medialab

2機同時観測の強み

2015年に観測を終えたメッセンジャー探査機との大きな違いは、異なる軌道を周回する2機による同時観測にあるといえます。水星の内部で何が起きているか知るには磁場の分布を精密に測定することが重要です。
一方、水星周辺では強い太陽風により電磁場環境の乱れが引き起こされており、水星そのものがもつ磁場の測定の妨げとなります。BepiColomboでは2地点から同時に磁場を測定することで両者を切り分け、これまでよりも精密に水星内部の情報を得ることができるのです。

「みお」の観測装置

「みお」、BepiColomboが
目指すサイエンス

1周辺環境から読み解く「みお」

水星は太陽に最も近く、磁場をもつ惑星です。太陽系の惑星は常に太陽が放出する高速のガス流である太陽風にさらされています。地球のように惑星がもつ磁場は太陽風に対してバリアの役割をすると考えられていますが、水星がもつ磁場は地球よりも弱く(1/100程度)、しかもはるかに強烈な太陽風にさらされています。このような地球と異なる過酷な環境でどのような現象が起きているかを知ることで、惑星磁場が太陽風に対して果たす役割を明らかにします。

第2の地球を探せ!
水星探査のその先へ

そして将来的には、その理解は太陽系以外の惑星における生命存在可能性を探るのに役立てられると考えられています。すでに太陽以外の星々にも4000個を超える惑星が発見されています。
特に注目されているのが、温度の低い星のごく近くを回る惑星です。太陽系の近くにある恒星の多くが低温星であり、その周りで生命の可能性が高いと考えられている適温の領域(ハビタブルゾーン)は星のごく近傍になります。
その代表例であるトラピスト1系ではすでに7つの地球型惑星(岩石惑星)が発見されており、そのうち3つはハビタブルゾーン内にあります。しかしその位置は水星よりもはるかに内側であり、強烈な恒星風にさらされていると考えられています。
こうした惑星の環境を知るためには、まず太陽系で最も過酷な太陽風にさらされている水星環境を詳しく理解することが重要なステップとなるのです。

2地質から読み解くMPO

水星は太陽に最も近い惑星であるにも関わらず、表面の鉱物組成には予想よりはるかに多い揮発性元素をもつことが発見されました。またメッセンジャー探査機が発見した水星特有の不思議な窪地も、地表から揮発性物質が抜けた痕跡ではないかと考えられています。
これらの結果は水星がいまよりも外側で生まれたことを示す可能性もあり、惑星形成論の再検討にもつながるカギを水星が握っているかもしれません。

写真:水星特有の不思議な窪地
NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington

地球はどうやって生まれた?水星と地球の生い立ち

水星と地球は、実は生まれたときはほとんど同じような惑星だったという仮説があります。しかしその後の進化の途中で水星に巨大な天体がかすめ表層の物質を引きはがしてしまったために、太陽系最小の惑星となり他の惑星に比べて大きな金属核をもつことになった、という考え方です。地球はある程度の大きさまで成長できた反面、大気による風化や活発な地殻活動、生命活動によって地球が生まれたころの情報は表層にはほとんど残っていません。一方、水星には生まれた頃の情報がたくさん残されていると考えられています。水星の地質情報を読み解くことで生まれた頃の情報を引き出せれば、地球には残されていない惑星誕生の秘密を解くことができるかもしれません。

3磁場から読み解く同時観測

地球のもつ磁場の研究から、惑星が磁場を生むには内部に溶けた金属核をもち、それらが対流することで電流を発生させる必要があると考えられています。太陽系で最も小さい惑星で、冷え固まりやすいはずの水星になぜまだ溶けた金属核が存在するのかは大きな謎のままです。さらに、メッセンジャー探査機の観測により水星磁場の中心は赤道から大きく北にズレていることがわかりました。
どのような内部構造があればこのような非対称の固有磁場ができるのか?BepiColomboでは2機による詳細な磁場観測から水星内部を解き明かし、惑星「進化」の情報を読み解きます。

磁気圏シミュレーション: W.Exner@TU-Braunschweig

探査機主要諸元

「みお」
Mercury Magnetospheric Orbiter

姿勢 スピン安定(4秒周期)
形状・サイズ 直径1.8mの円に内接する八角形柱型。高さ2.4m(アンテナ含む)。水星軌道上ではワイヤアンテナ4本(各15m)と磁場計測用マスト2本(各5m)をそれぞれ伸展する。
重量 255kg
科学観測装置 プラズマ・粒子観測装置計7つのセンサーをもち、水星周辺における様々なエネルギーの電子・イオンおよび高速中性粒子を計測。磁力計水星本体、磁気圏、および太陽風の磁場を計測。プラズマ波動・電場観測装置水星磁気圏および太陽風における電場・電磁波動・電波を観測。ダスト計測器太陽系内縁である水星軌道上での惑星間ダストや水星本体から放出されるダストを検出。ナトリウム大気カメラ水星の希薄なナトリウム大気の分布と変動を分光撮像。

MPO Mercury Planetary Orbiter

姿勢 三軸制御
形状・サイズ 2.4×2.2×1.7m。打上げ後に太陽電池パドル(7.5m)を展開する。
重量 1230kg
科学観測装置 レーザー高度計、Ka帯送信機、加速度計、磁力計、赤外線分光撮像器、ガンマ線・中性子線検出器、中性粒子・イオン観測装置、分光・撮像複合カメラ、太陽風モニター、X線分光器
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