水星磁気圏探査機みお

BepiColomboが拓く
惑星探査の将来
BepiColomboプロジェクトサイエンティスト村上豪

国際協力で存在感を放つ日本の磁気圏探査

私がBepiColombo計画に関わったのは2006年、大学院に進学した時からです。進学した研究室の一員として「みお」およびMPO搭載機器の開発チームに加わりました。プロジェクトの中で比較的若手の私でさえ、すでに12年以上BepiColomboに関わっています。
私はこのプロジェクトに関わるうちに、BepiColomboが日本の、そして人類の将来の惑星探査を占う重要なミッションだと感じるようになりました。BepiColomboはJAXAとして初の大規模な国際協力ミッションです。しかも単なる観測装置の提供ではなく、日本がそれまで地球の磁気圏探査で培った技術を活かし、探査機まるごと載せて水星を目指すという大がかりなものです。惑星探査の規模が大きくなり続けるいま、国際協力という形は今後のスタンダードになるでしょう。そうした流れの中で、大規模な国際協力において日本の得意な技術で存在感を放つ水星磁気圏探査機「みお」は間違いなく今後を占う重要な試金石になるはずです。その強い想いからこの長期ミッションに心血を注ぐ覚悟を決めました。

大学院生としてMPO搭載用紫外線検出器の基礎実験を行う様子(2006年7月)。

生命居住可能な系外惑星の環境に迫る

科学的に見てもBepiColomboは非常に重要なミッションです。水星は地球の仲間である岩石惑星の中で唯一分厚い大気層を持っておらず、惑星が誕生した頃の貴重な情報がいまも風化せずに多く表層に残されていると考えられます。MPOの観測から水星の起源を解明できれば、地球を含む岩石惑星の誕生の謎に迫ることができます。また太陽系で最小の惑星である水星になぜいまだ磁場が生み出されているかも大きな謎です。「みお」とMPOの2機同時観測から水星磁場を精密に測定し、それらを生み出す金属核の構造や運動を調べることで水星がこれまで磁場を維持してきた進化過程を解き明かします。そして、この磁場が強い太陽風に対してどのように働くかを磁気圏探査機「みお」が徹底的に調べます。これは太陽系にとどまらず系外惑星の生命居住可能な環境がどう維持されるか議論する上で重要なステップとなるはずです。

「みお」とMPOの2機で水星を徹底的に調べ尽くし、地球を含む惑星の誕生・進化・環境の謎に挑む。
Copyright:Spacecraft: ESA/ATG medialab; Mercury: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington

2026年の観測開始を見据えて

大きな科学成果が期待される一方で、その観測は決して一筋縄ではいきません。例えば水星が太陽に近く熱環境の厳しい時期には観測機器を冷ますため定期的に観測を停止しなければなりません。またせっかく観測したデータも、通信量の制約から全体の1/3程度しか地球へ送信することはできません。こうした制約の中で最大限の科学成果を得るため、科学者らと協力して綿密な観測計画を練っています。幸い我々はメッセンジャー探査機の観測結果を参考にできるので、まずは最新の科学成果を整理しているところです。本格的に観測を開始する2026年を見据え、この活動は若手研究者の有志を中心に進めています。長期プロジェクトのためか当初はあまり若手がチーム内におらず、メンバー集めから始めました。今では国内外合わせて50人以上が集まり、活動も本格的に船出したところです。
水星到着はまだ先ですが、そこへ向かう中で築き上げられたESAや海外研究者、そしてチームメンバーらとの絆は、実はすでに手に入れた大きな成果なのかもしれません。この経験や信頼関係がBepiColomboのその先の惑星探査へと続いていくことを信じています。

フランス・トゥールーズで行われた科学会議にてESAプロジェクトサイエンティストのJohannes Benkhof氏と(2017年5月)。

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