[ISAS news] さ~て、そろそろ行くか。 (村上)
2018年11月22日
2018年10月20日10時45分28秒(日本時間)、国際水星探査計画BepiColomboの水星磁気圏探査機「みお」および水星表面探査機 MPO を搭載したアリアン5 型ロケットがついに打ち上げられました。1997 年にワーキンググループが発足して以来、実に 21 年を経てBepiColomboが宇宙へと旅立っていったのです。当初からこの計画に携わってきた先生方や関係者のみなさまにとっては、まさに成人を迎えた我が子が独り立ちするのを見守るようなお気持ちだったでしょう。この場を借りて、全関係者のみなさまにまずは打上げ成功の御礼を申し上げたいと思います。
筆者は大学院生として「みお」搭載の水星ナトリウム大気カメラ(MSASI)およびMPO搭載紫外線分光観測装置(PHEBUS)の開発チームに加わって以来、12年ほど BepiColombo に関わってきました。打上げ時には探査機班の一員としてギアナ宇宙センターにて準備に参加していました。余談ですが、仏領ギアナへ発つ前日にプロジェクトマネジメント講習(初級)を受講したのですが、グループワークの課題が「打上げ2カ月前にロケットに不具合が見つかった。打上げを延期するか否かを含め、どう判断するか?」というものでした。ここでは詳細は省きますが、BepiColomboの打上げ準備を進めていく中でまさにそういった緊張感を現場で体感することができたのは人生でそう得ることのできない貴重な経験だったと思います。
リフトオフの瞬間、筆者は探査機チェックアウト室で「みお」の状態をモニタしていました(ただし「みお」はコールドローンチ)。アリアン5型ロケットの飛行状況が正常であることを示すフランス語のアナウンスが館内に響くなか、ESA や Airbus DS、Thales Alenia Space Italy の仲間たちと共に歓声を上げ歓喜のハグ。ああ、国際協力とはこういうことなのかなと、肌と魂で感じました。ちなみに我々とともに打上げを見守った川崎大師のダルマは海外勢に大人気で、打上げ直前の緊迫した探査機チェックアウト室の空気を和らげてくれました。これは今後の国際協力プロジェクトへの申し送りに加えたいと思います。
「みお」の初期運用はこれからです(本稿はそのためのドイツへ向かう機内で執筆)。その後には9回の惑星スイングバイと7年間のクルーズが待っています。水星への旅はまだまだこれからであり、本格的な科学データが得られるのも7年後です。しかし、これまで私がBepiColombo の開発や打上げの現場にいて感じるのは、すでに得られた大切なものがあるということ。「大切なものは、ほしいものより先に来た」とはジン・フリークスの言葉ですが、まさにその通りだと感じました。「国際協力」とは単なる言葉ではありません。お金でもありません。それは人と人との信頼関係であり、血が通い温もりを感じて初めて意味をもつのではないでしょうか。このチームと出会い、ともに働き、打上げの瞬間を彼らと見守ることができたことに心から感謝しつつ、これからの長い旅路に向けて改めて気を引き締め、覚悟をもって挑もうと思います。
この記事は、ISASニュース 2018年11月号 (No. 452)に掲載されています。