[ISAS news] 水星磁気圏探査機「みお」の機体概要 (峯杉)
2019年08月30日
「みお」の最初からの開発メンバーの一人である私にとって、かわいらしい「みお」という名より、私の宇宙研人生の約2/3を供にしたMMO(Mercury Magnetospheric Orbiter)という開発名が未だにしっくりきます。この探査機を構造屋の観点からおおまかに説明します。
「みお」の外観を図1に示します。本体は外径1.8 mの円に内接する八角柱で側面の高さは1.06 m、アンテナを含めた高さは2.4 mになります。重量は約280 kgです。観測装置を表1に示します。この探査機は、水星周囲の磁場や電場を観測するために、長さ5 mのマスト2本と長さ15 mのワイヤアンテナ 4本を伸ばしてスピンする必要があります。したがって、独楽と同じように回転軸を中心に対称な形になるスピン安定型の探査機になっています。
探査機の姿勢やスピンの速さは、スタースキャナと2つのスピン太陽センサからの情報で決められます。姿勢制御系は、太陽光の方向や水星の赤道面に対して探査機の姿勢を一定の角度に保ち、マストなどに本体の陰が落ちないように制御します。姿勢やスピンの速さを変える場合は、本体底面に2式、側面に4式搭載されたスラスタから窒素ガスを噴射します。また、スピンのふらつきはニューテーションダンパで抑える仕組みになっています。
地球との通信は、高利得アンテナ(HGA)と中利得アンテナ(MGA)を使って行われます。より多くの情報をやりとりできるHGAは2つのモータを使うことで本体はスピンしていても常に地球に同じ面を向けるように制御されています。そのため、長時間太陽光に晒される続けるところが出てくるので、HGAは小さくてもアンテナとしての効率がよく、高温にも耐えられように開発されました。開発初期の頃、耐熱性の高い特殊な材料を探しに現理事長と富士山の麓の方に行ったことを思い出します。
やっかいだったのは熱対策で、水星の周りでは地球の周りよりも最大11倍もの強さの太陽光を受けます。金属の板をこの太陽光に晒すと摂氏500度を超えてしまうような素敵な熱さになります。まさに、炎の上でぐるぐると回されながらローストされていくかたまり肉のような状態になるのです。そのような灼熱地獄の中でも、探査機内部の搭載機器をほぼ常温に保つ必要があります。そこで、太陽光からの熱入力を極力小さくしながら搭載機器を収納する空間を確保するために、太陽光に晒される側面の高さを抑えた平べったい形にしました。搭載機器は上下わずか30 cm強の空間に収納されています。側面のパネルには電力を得るために太陽電池を貼らなければなりませんが、色が黒いため最大 摂氏230度になります。したがって、高温になっても非常に強い太陽光を安定して電力に変える太陽電池が開発されました。しかし、高温になった太陽電池を貼り付けたパネルの裏側に搭載機器があるとその機器も熱くなってしまいます。そこで、裏側に搭載機器があるパネルの下側には太陽光を反射して熱入力を抑えるOSRと呼ばれる鏡を貼り付け、本当は高さを抑えたいパネルを泣く泣く上側に伸ばして太陽電池を貼り付けました。だから、探査機はミラーボールのようになっていて、側面パネルの上半分に太陽電池が貼り付けられているのです。それでも探査機内部に入ってくる熱や搭載機器が出した熱は、探査機の底面から宇宙空間に逃がします。
「みお」は水星近傍までサンシールドで太陽光から守られています。ESAの探査機MPOから分離すると初めて強烈な太陽光に晒されることになりますが、スピンを前提とした熱対策を施しているため、分離時にスピンをかける必要があります。これには、細いプラスチック製の棒を組み合わせた軽量な機構で分離しながら同時にスピンをかけられるという日本が誇る技術が採用されています。 長年に渡る開発において、熱さに対して鍛え抜いた「みお」は、現在、惑星間空間を航行中です。
この記事は、ISASニュース 2019年8月号 (No. 461)に掲載されています。