水星磁気圏探査機みお

[ISAS news] オランダ駐在記 ~射場までの3年間~ (中澤)

2020年10月02日

2018年4月に「みお」は射場のあるフランス領ギアナへと出発しました。

それまでの3年間、「みお」はオランダのESTECでESAの探査機MPO・推進モジュールMTMと組み合わせた試験を行っていました。私個人は2008年度の途中からBepiColomboに参加していました。前半はEMC(電磁適合性)に関する開発を行い、後半はマネージメントの支援をしてきました。とくにEMC開発では全ての機器のEMC試験を行いましたのでそれぞれに愛着があり、ずっと併任業務ではありましたがそれでも「10年かかってようやく射場に送り出せた」という感慨がありました。7月号に書かれていましたが、MMOがESTECにある期間は、必ず1名が交替で常駐する体制をとりました。ESTECの近くのLeiden駅前にアパートを借り、バスで毎日ESTECに通勤していましたが、このアパートのローテーション生活はなかなか充実したものでした。

当番は約2~3週間ずつ交替で住み込んでいました。ホテルでは洗濯ができず、外食続きになるのが難点ですが、アパートだと洗濯機とキッチンがあるのがメリットでした。間取りは2LDKで、男女それぞれの寝室と、広いLDKが1部屋ありました。洗濯機や食器、棚、ソファーなど揃っているのがヨーロッパのアパートの便利なところです。ただし、ヨーロッパの洗剤は洗浄力が強力なのですが、香りも独特で強い気がします。帰国すると家族に「オランダの香り」と言われたりしました。

オランダのスーパーの野菜は量り売りが基本です。秤の使い方がオランダ語なので、最初は戸惑いましたが慣れれば簡単です。巨大なキュウリやパプリカ、小さな白菜、など日本との違いも楽しく、マッシュルームやムール貝の安さに驚きます。オランダには様々な国の出身の人が住んでいるためスーパーの品揃えも多国籍で、醤油や日本米、豆腐も手に入ります(オランダでは醤油と言わず "キッコーマン"と呼ばれていましたが)。

そういえば、ESTECのドイツ人が「オランダには美味しいパンとワインが無い!」と嘆いていました。確かにワインは輸入品しかありませんでしたが、代わりにビールは種類が豊富で隣国のベルギービールと遜色なく美味しく、いろいろ楽しみました。瓶ビールが主流で、缶ビールより瓶ビールのほうが美味しく感じます。いつしかアパートの幅3mの棚には、各当番が飲んだ空き瓶ビールがずらりと並ぶようになりました。毎年4月27日は「オランダ国王の日」という祝日です。街中がオランダカラーのオレンジで飾られ、Leidenでは大規模なフリーマーケットが開催されるのですが、そこで共用の自転車を買いました(下手な英語で値切り交渉もしました)。以降、行動範囲が大きく拡がりました。ある当番はESTECまで1時間かけて自転車で通勤し、オランダ特有の強風にあおられたりしました。オランダではママチャリ型の鉄製の自転車が主流なのですが、なぜアルミ製にしないのか聞いたら「軽かったら風で飛ばされてしまうだろ」と言われました。競技用以外では軽くしたいと思わないようです。

MPO、MTMと組み合わせた機械試験や電気試験になると日本から作業者が来ます。アパートに泊まれるのは1名ですが、試験が終わるとホテル滞在者を招いてホームパーティを開いたりしました。写真は2018年4月にESTEC撤収作業のあと、アパートで行った最後のホームパーティの1枚です。残っていた食材を片付けてアパートを引き払い、「みお」は射場へと輸送されていきました。

この3年間は、私の別業務がちょうど穏やかな期間でしたので、ESTEC駐在を年に数回担当することが出来ました。朝から夕方までESAやヨーロッパの開発メーカーのメンバーと一緒に仕事をしていると、個人個人が見えて彼らへの理解もぐっと深まりました。ESAにもドイツ人がいてイタリア人、イギリス人、そしてフランス人。そこに個性が上乗せされていることがだんだん見えて、"ESA"と一括りに見ようとするから戸惑う、ということを実感しました。時々のインタフェース会議では到底得られない経験でした。

さて、射場輸送やクールーに行ってからの記事は次の人にお願いすることにします。

マネージメントおよびEMC担当 中澤 暁(なかざわ さとる)

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アパートでの最後のホームパーティ。左から3人目が早川先生(当時のプロジェクトマネージャ)。右下手前が筆者。

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アパート外観。借りていた部屋は5階。写っていないが写真左手は小さな運河が流れており、ボートが行き交っていた。

この記事は、ISASニュース 2020年9月号 (No. 474)に掲載されています。

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