[ISAS news] ISAS深宇宙探査船団「太陽の陣」 ~「ベピコロンボ」「あかつき」「ひので」による太陽共同観測~ (村上)
2021年04月22日
日欧共同水星探査計画「ベピコロンボ」は、2025年12月の水星到着を目指し順調に航行を続けています。2021年3月に探査機は地球から見て太陽の向こう側へ回る外合を打ち上げ後初めて迎えました。
探査機との通信が制約されるためクリティカルな運用となりますが、一方で重要な観測機会にもなります。探査機と地球の間を飛び交う電波が太陽近傍をかすめる際に太陽コロナや太陽風中のプラズマの影響を受けるため、逆に観測手段として利用することができるからです。これを電波掩蔽観測と呼び、通常探査機が近づけない太陽近傍領域の観測が可能な貴重な手段です。「ベピコロンボ」の水星表面探査機(MPO)には電波科学用の観測装置MOREが搭載されており、外合時には太陽コロナや太陽風観測のほか一般相対性理論の検証実験も行います。
しかも今回は「ベピコロンボ」だけでなく、金星探査機「あかつき」も同時期に外合を迎えました。「あかつき」にはすでに電波掩蔽による太陽観測の実績が何度もあり、今回は「ベピコロンボ」とタイミングを合わせて2機同時による共同観測キャンペーンを実施しました。2機同時による太陽電波掩蔽観測は世界でも初の試みであり、太陽風加速機構の解明に向けた新たな観測データの取得が期待されます。
2機による太陽近傍の電波掩蔽観測に加えて、太陽観測衛星「ひので」が太陽表面の観測を行いました。特に「ひので」が得意とする偏光観測による太陽表面磁場の精密測定は、「ベピコロンボ」「あかつき」が観測した位置につながる磁場を推定するために重要な役割を果たします。「ひので」の観測結果をもとに太陽風予測モデルSUSANOOを用いてシミュレーションを行い、「ベピコロンボ」「あかつき」の観測結果との比較研究を行う予定です。
今回、ISASが配備した深宇宙探査船団の3機を用いた太陽観測キャンぺーン「太陽の陣」は、「ベピコロンボ」「あかつき」「ひので」メンバおよび内部太陽圏科学の研究者の横断チームの尽力により、2年以上にわたり計画・検討され実現したものです。観測運用は計画通りに行われ、現在取得したデータを各チームで鋭意解析中です。科学成果の報告を楽しみにお待ちください。